
(菅原孝標女を演じるなら黒川芽衣かな)
「更級日記」は、源氏物語に憧れ続けた少女時代から、夫と死別して尼生活を送る40年間のことを
回想して書いた、美しい作品だ。
大学生の時、「更級日記」を講義していた教授が、いつもこの本を懐に抱きしめるようにして
歩いておられたが、その気持ちはよくわかる。
平安文学を読んだ中で、一番いとおしい気持ちにさせてくれたのは、この作品かも知れない。
登場人物は「母なる人」とか「姉なる人」といったように固有名詞をさけて表される。
日常生活の中に、夢や幻が、美しく・はかなく交錯していく文学少女日記だ。
ひとつ忘れてはならないこと(テストには何故か出ない)は、「更級日記」の成立年代と、
仏教でいう「末法到来」が重なっているということだが、
この話は長くなるので、後に譲る。

さて、作者が念願の「源氏物語」を手に入れる件( くだり )は、いつ読んでもすばらしい。
「源氏の50余巻、ひつに入りながら・・・得てかへるここちのうれしさぞ、いみじきや。
はしるはしる、わずかに見つつ、心も得ず心もとなく思ふ源氏を、一の巻よりして、
人もまじらず、几張のうちに打ち伏して、ひき出つつ見るここち、后の位も何かはせむ」
スピード感のある名文なので、暗誦することを薦める。意味は、ふたとおり考えられる。
「源氏物語五十四帖、櫃に入ったままそっくり・・・手に入れて帰るときの嬉しさは、
たいへんなものだった。
(今までは) 飛び飛びに、読み読み (笑)して、話の筋も納得いかず、
じれったく思っていた源氏を、第一巻から
たった一人で、几張の中で寝転んで、櫃から取り出しながら読む心地は、
皇后の気持ちも何するものぞだ」
あるいは
「・・・はやる心で、ちらちら見ながら・・・(はしるはしる、わずかに見つつ)のところだぞ。」
面白いことに、この文学少女は「夕顔」や「浮き舟の女君」がお気に入りだ。
源氏に登場する女性の中でも、特に薄幸な、この二人のようになりたい、みたいなことを すぐあとに書いている。
今風に言えば、
「出生の秘密があって、難病にかかっていて、結ばれざる人に恋している大映ドラマのような
ヒロインになりたい」というわけだ。
天皇の后よりも悲劇のヒロインを選ぶのが作者・菅原孝標女(たかすえのむすめ)らしい。
ただし、末摘花(すえつむはな・ブスだったんです><;)を出さないところなどは、しっかり少女してい
る。

(姉妹で大切にしていたネコ殿は、屋敷とともに夜の火事で亡くなってしまうんだ。
全体に末法の無常観が流れる傑作文学だ)
源氏を手に入れた時、彼女は、夢に出てきた黄色い袈裟を着た僧侶に
「そんなものを読んでいないで、女人成仏を説いた法華経巻きの五を読みなさい」
と諭されるが、物語に夢中になって従わなかった。
彼女は「いと、はかなく、あさまし」 (とっても他愛もなく、あきれ果てた少女時代だった)と回想して
この章の締めくくりにしている。
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